「生涯現役で、やっていきたい。」これからも天性の手先の器用さと、センスで新たな作品を作り続けていく。
宮原正志
MIYAHARA Masashi
職人歴:60年。
下地で使う「錆漆」を用いた独自の塗技法「龍宝」、「寿光」、「絹」を考案しました。
装飾に転向。最初は家族にも反対された。
経歴を教えてください。
職人歴は60年を超えますね。はじめは家業で塗り職人をしていたけれど、蒔絵や沈金などの装飾に比べると、どうしても裏方の仕事となってしまう。見てもらえないのが悔しくてね。自分の手で装飾もやりたいと思って、下地で使う「錆土(さびつち)」を用いた独自の装飾技法「龍宝(りゅうほう)」、「寿光(じゅこう)」、「絹」を編み出しました。装飾に転向するのは、当時は家族に反対されたけれど、独立して7年目で伝統工芸士に認定されたんで良かったんじゃないかな。
「宮原、お前が死んでも龍宝は残るぞ」
「龍宝(りゅうほう)」の技法について教えてください。
「龍宝」は龍の鱗を思わせる、凹凸のある力強い模様だね。錆土をタンポで塗布したり、つや出しをしたり、ふきあげたりして、漆の上に立体感を出していますので、高級感のある仕上がりになります。座卓の天板を龍宝で囲んで、金粉や朱粉でさりげなく輝きをあしらった装飾が人気だね。特許も取得しましたよ。かわいがってもらった先輩から「宮原、お前が死んでも龍宝は残るぞ」と言ってもらえたのが印象的ですね。
「寿光(じゅこう)」と「絹」の技法についても教えてください。
「寿光」は市松模様を飾る技法で「ピンポンパン体操」で知られる酒井ゆきえさんが取材にいらした時に ”寿の光のようだ” と命名していただきました。
80歳の時には、手紙などを入れる漆塗りの木箱に寿光を施した「金銀市松」を、関東伝統工芸士会作品コンクールに出展したところ、最優秀賞に当たる「経済産業省関東経済産業局長賞」を受賞しました。この歳でトップなんてびっくりしたよ。
「絹」は、漆塗りに草花の切り絵で型取りをして、それ以外のところに色のついた錆土を付けていくんだ。そうすると切り絵を貼っていた部分の草花が浮き出るんだね。お茶の先生が和菓子を入れたいと言って購入してくれたこともあったね。
生涯現役で、やっていきたい。
漆に携わって楽しいと思うのはどんなときでしょうか?
自分で作ったものが褒められたときが、いちばん嬉しいね。こういう作風は若い者が作っていると思われるようで、歳を知られると驚かれるだよね。こんなに神経を使う作業ができるのは、天性の手先の器用さと、センスのおかげさ。
今までいろんな展示会で入賞してきたけれど、今後も作品を作って、毎年展示会に出していきたいね。生涯現役でやっていきたいですね。